ミルコ・クロコップと編集長のこと。

RIZINのリングの上で、久々にミルコ・クロコップとヴァンダレイ・シウバが試合をすることになったという。
ミルコの完全復帰を予感させる完璧な勝利の後、高田本部長が往年の王者2人に試合を行う意思を確認すると、ミルコは「…ヤル」とだけ短く答え、ヴァンダレイは「ヤッテヤルー」とラテン系のノリ(にもかかわらず棒読み)を見せた。
東欧と南米の温度差——
これだけでも、思わず胸をぐっと締め付けられる思いがするのである。

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ミルコが前にヴァンダレイと戦ったのは、2006年の9月のこと(たしか、ミルコの誕生日だった)。
打たれすぎて血まみれになったヴァンダレイの顔をミルコの左ハイキックが捉え、完膚なきまでのKO勝ちだった。
PRIDEのなかでも屈指の名バウトである。

一方、そのときの僕はというと、いまでもよく思い出せないのだが、なぜか当時所属していた講談社の雑誌編集部の編集長と副編、先輩の編集者とともにその試合を会場で観ていた。
慣れない先輩たちとの時間ではあったものの、一方よく知った格闘技の会場ということもあって(もともとは格闘技雑誌にいたからね)、妙にまったりとした気分になっていたと思う。
すると、先ほどのKO劇。
刹那、編集長が急にテンションを上げて甲高く声を上げていた。
「こんな風に興奮する人なんだ」と感心するくらいの声の高さだった。

編集長は、会場を出てもなお興奮冷めやらぬ感じで「こんなに火照っちゃったら、肉を食いに行くしかない、肉!」と言って、帰り道、僕たちを赤羽のスタミナ苑に連れて行ってくれたのだった。
スタミナ苑で出された料理はどれもおいしくて、店のおじさんが「これは3秒で食べて!」みたいな感じで、特別メニューを次々と出してくれた。
お酒もおいしかった。
百年の孤独とか森伊蔵とか天使の誘惑とか、プレミアム焼酎と言われるものがじゃんじゃん出てきて、後半戦はすっかり酔っ払ってしまった。
最終的には、みんなでタクシーで帰ろうということで、音羽に向かったのだが、社に着く頃には僕はグロッキーになっていて、車を降りた瞬間、食べたものをすべて吐いてしまった。

血まみれのヴァンダレイと編集長の甲高い雄叫び、そしてむせかえるゲロの臭気——
ミルコの試合を目にするたびに、なぜかいつもその日のことを思い出す。

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先ほど、講談社の編集部時代の仲間からメッセージが飛んできて、すこしばかり世間話をした後、「そういえば、Hさん、亡くなったって」と言われた。
その編集長のことだった。
香港出張先で、くも膜下出血になったらしい。
詳しくはわからないが、来週には社にその知らせが貼り出されるだろう、とのことだった。
ミルコの試合を観て、あの甲高い声を思い出しながら苦笑していたところだった。
「確かにすごい試合だったけど、あんな声、ふつう出すか?」と思っていた。

雑誌が潰れて、社を出た後、たぶん一度も会うことはなかったと思うが、亡くなったと聞いて、妙な気持ちに落ち込む。
思い出せば恨みとかけっこうあるんだけど(特にギャラ面で)、なんかすべてが吹っ飛んでしまった。

死ぬのは、ずるいなあ。

そういえば、そんなこと前にもあったなと思ったら、やはりそのときも先輩のライターがくも膜下で亡くなったときだった。

死ぬのはずるいよ、やっぱり。

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